「ここですね。ジーナの言っていた洞窟は」

ラシュトたち5人は、サイードの案内でジーナの指定してきた洞窟へと辿り着いた。

「・・・行くぞ」

中は意外と明るく、ところどころに灯りも灯してあった。

「ちっバカにされてるみたいでなんかムカつく・・・何だあれ?」

リューマが灯りの下に何かが置かれているのを見つけ、それを手にとった。

「んーと・・・『左の路は宝玉の輝きを前に哀れなる死が待ち、右の路を進めば自らの心に敗れ、

 呪われし身は朽ち果てる・・・何れの死を汝は選ぶか』・・・ですって」

リューマの手の中に手紙をサウラが覗き込んで読み上げた。

「どういうことでしょうか?」

セビリアが不思議そうに言うと、レイが呟いた。

「・・・左の路を進めばティファのもとへ辿り着き、右の路を進めばジーナのところへと着く・・・そう言いたいのだろう」

「信用できるか、あいつが?」

ラシュトが当然の疑問を口にした。が、レイは続けた。

「恐らく、信用できるだろう。・・・自意識過剰そうな奴だったからな。我々が七人でも勝つ自信があるのだろう。

 わざわざこんなものを置いているくらいだ」

「じゃー早くティファを助けてジーナをぶっ倒してやろーぜ!!」

リューマがそう言って左の路に行きかけた。四人もそれに続こうとしたが、サイードは動かず、じっと右の路をみつめていた。

「サイードさん?」

「――――ごめんなさい。僕は・・・右の路に行きます」

セビリアの問いに、サイードが静かに答えた。

「でもサイード、・・・あいつ、あなたより・・・」

サウラの言葉は、サイードの静かな微笑みにかき消された。

「・・・わかってます。僕一人じゃ勝てないことは。でも、僕は・・・」

沈黙が流れる。しばらくして、サイードはゆっくりと歩き始めた。

「サイード!すぐに行くから待ってろよ!!」

リューマが意を決して言うと、サイードも笑顔で返した。

「僕のほうが先に援護に行ってあげますよ、リューマさん。それとも・・・一人で大丈夫・・・というよりむしろ一人のほうがいいですか?」

「!!・・・なんだとサイードっ!!」

「・・・ぷっ!」

「リューマの負けですねぇ〜」

そういいながらセビリアもくすくす笑っていた。レイは軽く溜息をついていたが、その表情は穏やかだった。

「さて・・・それではみなさん、お気をつけて」

そう言ってサイードは剣を抜くと、右の路の奥へと消えていった。

「俺らも行くか」

「そうね。ねっリューマ?」

「・・・うっさいサウラ」

それでもリューマは先頭にたって歩き出した。自然と最後尾についたレイは、サイードが消えていった路をじっと見つめていた。

「―――・・・死に急ぐなよ、サイード・・・」

そう呟き、彼も足早に仲間の後を追った。











ズシャアッ・・・・グァァッ!!


洞窟内に、魔物の断末魔の絶叫が響く。

崩れ落ちる巨大な猫方の魔物には目もくれず、サイードは跳躍した。

身にまとった漆黒のローブが翻り、閃光のような斬撃が急降下してきたハーピィの両翼に放たれる。

「・・・ふぅ・・・本気の僕を殺すのなら、もっとマシな相手を用意していただきたいものです・・・」

剣を振って血の雫を払いながら、サイードはそう呟いた。

部屋中に死んで横たわる魔物たち。

だが、今日の彼にそんなものに情けをかけるような気は、全くない。

もう一度軽く溜息をついて、彼は歩き出そうとしてふと、足を止めた。

奥の暗がりから、四つの影が現れたのである。

「へぇ・・・」

人型の魔物である。凄腕の剣士デュラン三匹と、ゴールデンゴーレム一匹。

まともに考えれば、勝てる相手ではない。

デュラン一匹でも、並の剣士十人分ほどの強さなのである。

だが、サイードはひるまなかった。

「やっと、少しはマシな相手が来ましたね・・・」

サイードが、ゆっくりと剣を構えた。






「邪魔・・・・・すんなっ!!」

リューマの棍が回転し、飛び掛ってきた蛇の魔物を吹き飛ばす。

ラシュトの剣が、サウラの槍が、次々と現れる骸骨剣士“ブラッディボーン”を倒していく。

「ラシュト後ろっ!」

「え・・・うわぁっ!」

ラシュトのスキを突いて、獣人オークが後ろから襲い掛かる。

「バリアー!」

セビリアの声にあわせて生じた光の壁が、オークの三日月刀をはね返す。

すかさずラシュトが突きを放ち、オークを倒す。

「・・・サンダーブレード!」

レイの雷系攻撃呪文が、天井近くを飛んでいたハーピィを一瞬で打ち倒す。

唯一のこった一匹も、リューマが棍で叩きのめした。

「おっしゃ、片付いたな」

「じゃ、次の階に行きましょ」

リューマとサウラはすぐに次の階へと移って行く。レイもすっとその後を追う。

「あいつら元気だなぁ・・・・・。・・・・痛っ」

ホッと一息つくと、ラシュトは自分がいつの間にか腕を怪我している事に気付いて顔をしかめた。

「大丈夫ですか?今治してあげますね・・・・・・・ヒール」

セビリアの呪文によって、温かい光がラシュトを包み、傷が癒える。

「サンキュ、セビリア。あ・・・あとさっきはありがとう。おかげで助かったよ」

「うふふ、どういたしまして。・・・さ、サウラたちに遅れないよう私たちも行きましょう」

「・・・ああ。」








ガアンッ!!


「くっ・・・」

サイードはやや苦戦していた。

デュラン三体は相当に手強かったが、彼が最も得意にする剣技、剣閃による真空破で敵を斬る“風牙乱用刃”で既に倒していた。

「翔空裂天斬!!」

だが、ゴールデンゴーレムは何度斬りつけても、何度技をけしかけても刃がはね返されてしまう。
斬り上げたあと、上空から五連続の斬撃を放つ“翔空裂天斬”も、見事に弾かれてしまった。

「・・・くそっ・・・うわっ!!」

一瞬の焦りによって生じた隙を突かれ、サイードはゴーレムに攻撃を許してしまった。

直撃は避けたものの、生じた爆風のような衝撃で、彼は吹き飛ばされた。

「・・・痛・・・危ないところでした・・・」


―――叩き潰されて終わり、なんてのはごめんです・・・それにこれ以上時間をとるわけにはいきませんからね・・・


サイードは剣を鞘に収め、呼吸を整えた。

ゴーレムが再び拳打を放った時、彼は前方へ跳び、ゴーレムとすれ違った。

彼の剣から、蒼い閃光が迸る。

「―――夢幻蒼龍斬」

サイードが呟くと同時に、ゴールデンゴーレムの上半身がゆっくりと地に落ちた。

「・・・僕の最終奥義です。・・・あなたにも味わっていただきますよ」

何も無い、ただの壁に向かってサイードが呟くと、ゆっくりと壁が割れ、広い部屋が現れた。

そこに一つの影が立っていた。

「―――見事です、サイード=ラサーファ。ここまで一人で辿り着くとはね」

ジーナは不気味な笑みを浮かべていた。

二年前に闘った時と同じ、あの忌まわしい笑みを。

サイードの体が、かすかに震えた。

ジーナの持つ力への恐怖と、それをはるかに上回る、深い憎しみに。






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