「はぁっ!」

ラシュトが、トカゲ人間“リザ―ドマン”の最後の一匹を切り倒し、室内の敵は一掃された。

「ふぅ・・・」

「ねぇ、ラシュト・・・この部屋、階段がありませんわ」

リューマにヒールをかけてやりながら、セビリアがいった。

「えっ・・・確かに、無いな」

「どういうこと?ティファはどこにいるワケ?」

「待て待てサウラ。俺に訊かれても答えようが無いんだが・・・」

と、そこでリューマが立ち上がった。

「ならよ、何か仕掛けがあるんじゃねぇのか?探してみようぜ」

そう言って壁を叩き始めるリューマ。ラシュト達は顔を見合わせた。

「・・・なんて言うか・・・アレだよな。」

「・・・まぁ、リューマはやっぱりリューマってことだし・・・いーんじゃない?」

「・・・・・・・・・・私たちも早く手伝わないか・・・?」

一番リーダーらしいのは誰か一目瞭然ね、と思いながらセビリアは軽く壁を叩いた。

するといきなり部屋が揺れ始めた。

「セビリアっ壁から離れろ!」

「セビリア様早くこちらへ!」

セビリアが壁から離れた途端、彼女が今まで立っていた部分が割れ、階段が現れた。

「――――隠し階段とはね・・・まったく、どこまで手が込んでんだ」

五人が階段を下りると、一枚の木の扉があった。

ためしにラシュトが押してみるが、全く動かない。

「破るしかないか。」

「そうだな」

ラシュトとリューマが後ろに下がり、ドアを破ろうとした時。

レイがスッ、とドアに歩み寄った。

「レイ、危ないからどいとけよ」

リューマがそう言うと、レイは彼のほうへと向き直った。

「リューマ、ラシュト・・・」

「ん?」

「どしたレイ?」

「押してだめなら・・・引くことだ。」

「いくらなんでも・・・」

そんな単純な事は無いだろ、と言いかけてリューマは固まった。

キィイイ・・・

レイの手に合わせて、ドアがゆっくりと“こちら側に”開いた。

「・・・いくぞ」

レイを先頭にサウラ、セビリアが行ってしまうと、ラシュトがリューマに呟いた。

「・・・リューマ」

「・・・んだよ」

「・・・いや、いい。俺たちも行こうぜ」

「・・・・・・・・ああ。」


次の部屋にはモンスターは一匹もおらず、その向こうに開け放たれた大きな扉があった。

リューマが素早くダッシュする。

「ティファ!!」

「―――リューマ?」

その部屋にあった牢の一つに、ティファが閉じ込められていた。

「大丈夫か?」

「うん・・・」

「ティファ、心配したんですよ」

「無事のようね」

「良かった良かった」

リューマに続いて、四人が次々に部屋に入ってくる。

「よっしゃ、今開けて・・・」

「リューマっ危ないっ!!」

突然ティファが叫んだ。

「ん?・・・っうわぁっ!!」

天井付近から、いきなり剣が降ってきた。リューマはかろうじてそれをかわした。

「何だこれっ・・・!?」

突然、その剣の横に人影が現れた。それは本当に影のように、黒一色の人型をした魔物―――シャドウナイトだった。

「まだこんな奴が・・・」

そのとき、レイがふと後ろの大広間に視線をやった。

「―――挟まれたか。不覚だったな・・・」

その大広間も、どこから現れたのか魔物の群れで溢れかえっていた。

セビリアが思わず、こくりと喉を鳴らした。

「・・・ラシュト・・・」

「どうした?レイ」

「・・・どうやら・・・大ピンチだぞ」

魔物たちが、一斉に牙をむいた。






「ジーナ・・・僕はあなたを倒す事だけを目的に、あの日から生きてきた」

サイードが、己の恐怖を断ち切るように、ゆっくりと剣を構える。

「憎しみに生きたのですか、サイード坊や?中々、楽しい人生だった事でしょうね」

対するジーナも、悠然と剣を抜いた。

「それも・・・今日で終わる」

「君の死によって?」

「・・・あなたの死によって、ですよジーナ」

「それは不可能ですよ」

相変わらず余裕の笑みを浮かべるジーナ。サイードはついに爆発した。

彼は二年間、自らを責め続けた。そしてひたすら強くなる事を目指した。

全ては、今、このジーナと戦う時のために。

「今日ここで、ジーナ、あなたは死ぬ!僕が、あなたを倒す!!」

岩でも真っ二つにできそうなほどの凄まじい斬撃がジーナに向けて放たれる。

「―――サイード坊や、無駄なことですが一つ忠告をしてあげましょう。この私と戦う時は、自らの心が一番の敵となるのですよ。」

「黙れっ!!」

サイードが横殴りの斬撃を放つ。当然受けられると思っていたが、ジーナはこれを避けた。

剣を振り切ってしまったサイードの側面にできた隙を見逃さず、ジーナの剣が繰り出された。

サイードはとっさに後方へ飛んだが、間に合わず左足にジーナの刃が入った。

「ぐっ・・・!」

「ほうら。だから忠告してあげたでしょう?“自らの心が一番の敵だ”と。過信するべきではないですよ、自分をね」

傷口をおさえ、サイードはジーナを睨みつけた。

「―――ふふっ良い目ですね。あなたなら、優れた“魔界の兵器”になれたでしょうに」

「何を・・・」

「憎しみを糧に、強さを得る・・・あなたの心の闇は、我々魔界のものに近い、ということですよ」

「その闇を作ったのは、あなたたちだ」

「でも今のあなたは我らに近い。これは事実」

歌うようにジーナは言葉を紡ぐ。

「今からでも遅くない。サイード=ラサーファ。我々の仲間になりませんか?」

「断る!!戯言を、これ以上語らないで頂きましょう」

沈黙が流れる。

「・・・君が拒み続けるのなら、私は君を殺さなければならないんですがねぇ?」

ねっとりとした、不思議な力を持った言葉が、サイードの頭に響く。

「君の無駄な死を喜ぶ人はいないと思いますが?君の亡き両親、村の友人、村長、育ての親たち・・・」

(・・・くっこの頭に響く声は、一体・・・)

頭を押さえるサイードを見ながら、ジーナは続ける。

「君をかばって死んだ少女・・・フィア、でしたか?彼女も君の死を願うはずがありませんよ?」

サイードは答えない。頭を垂れたままだ。ジーナはフッ、と笑った


堕ちた、と。


だが、サイードの剣がすべるように動いた時、その笑みは消えた。

「風牙乱葉刃!!」

「!!」

ジーナがとっさに伏せた頭の真上を、サイードの放った真空刃がかすめた。

ジーナの髪が2,3本切断され、地面に落ちていった。

「・・・これが僕の答え・・・闇を憎むものが、進んでその仲間になるわけが無い」

「・・・」

「―――お気に召しましたか、ジーナ?」

「・・・・・・・の・・・・・人間がっ!!」

突然、ジーナが悪鬼の形相になって撃ちかかってきた。先程よりもその斬撃は速く、重い。

「一介の人間ごときが!魔族に刃向かって勝てるとでも思ったか!!」

「くぅ・・・っ!」

弾き飛ばされ、壁に叩きつけられたサイードを、容赦なくジーナの剣が襲う。

「この私に!魔族に!最後まで刃向かったこと!後悔しながら死ね!!」

必死に体勢を立て直し、攻撃を受けるサイード。

「く・・・っ」



―――――-チャンスは一度・・・・・それまでは・・・・・・――――――



「サウラっ後ろ!!」

「わかってるわよっ!」

サウラの槍が大きく弧を描いて魔物を切り捨てていく。

「くそっやはり敵が多すぎるな」

レイも詠唱中に何度も攻撃を受けてしまい、魔術が使えないためにレイピアを抜きサウラ、ラシュトとともに魔物の群れと戦っている。

一方のリューマは鍵を開けるのをセビリアに任せ、シャドウナイトを相手に一人奮闘していた。

「く・・・・の野郎ぉっ!!」

棍がうなりを上げてシャドウナイトを襲うが、見事な剣技によってすべて受けられ、逆にリューマは押され始めている。

(くそっ・・・どうすりゃいいんだ!?)

セビリアは鍵穴相手に困り果てているし、ラシュト、レイ、サウラの三人も次第に押し戻されてきている。

まさに八方塞の状態だった。

「レイ、一旦退け!!」

「・・・何故?」

突然ラシュトが何かを思いついたように叫んだ。

「俺が何とか粘るから、その間に攻撃範囲の広い術でやれば・・・・ぉわっ!」

山羊の角を持った悪魔の姿をした魔物の拳打をかろうじてかわすと、ラシュトはそいつを叩ききった。

「――――三十・・・いや、二十秒必要だ」

「上等!」

「私もついてるしね!」

後退するレイを追おうとした魔鳥を槍で叩き落としながら、サウラも言った。

「・・・任せたぞ」

レイが素早く詠唱に入る。そのすぐ後ろでは、

「ティファ、中に何かあけるような仕掛けはありませんか?」

「ないよ。てかセビリア、中から開けられるような牢屋なんかナイと思うンだケド・・・」

「う〜ん、そうですよね・・・困りましたねぇ・・・」

心底困った様子で溜息をつくセビリア。

(・・・なんってゆーか・・・ほんっっっとにセビリアってばお嬢様だね;;)

何が起こっても取り乱さないとことか、と考えているティファも実は緊張感の無さにかけては結構似たようなものなのだが。

その向こうでは、リューマvsシャドウナイトがやっと決着しようとしていた。

「くそっまたか!」

リューマの棍が虚しく空を切る。

何度隙を見て打ち込んでも、本当に実体が無いもののようにするりとかわされてしまう。

そして反撃をくらってはまた打ち込んで・・・・・・・の繰り返しである。

(やっぱ・・・・こうするしかねーか)

次にシャドウナイトが斬り込んできたとき、リューマは棍で受けるでもなく、かわすでもなく、その剣をいきなり素手でつかんだ。

一瞬、相手の動きが止まる。リューマは、ニッと笑った。

「ワリィな。これ以上時間とれねぇんだよ、お前一匹にな」

シャドウナイトが退こうとした時には、既に遅かった。

「・・っぉおおっ!!」

リューマの攻撃は見事鎧に命中し、それは木っ端微塵に砕け散った。

「ふぅ。・・・ったく」

「やったぁ、開きましたわ!」

リューマの溜息とセビリアの歓声が同時に響き、それにかぶさるようにレイの凛とした声が響き渡った。

「バーニングドライブ!!」

灼熱の炎が周囲を一気に襲った。魔物の群れは一瞬で消滅して、辺りには静寂が戻った。

「・・・レイ、危ねーだろっ!俺までくらうトコだったぞ!?」

ラシュトが危うく焦げかけた前髪をつかんで文句をいうが、レイはそれをサラリと返した。

「・・・すまない。サウラは見えたが、ラシュトはどこにいるかわからなかったからな。ラシュトの運動能力に賭けた」

「・・・・。・・・・ったく・・・まぁいいけどさ・・・はぁ、疲れた」

「ふふふっ。・・・ヒール」

座り込んだラシュトに、セビリアが微笑みかけながら癒しの術をかける。

火傷が見る見るうちに消え、ラシュトは前髪をかきあげた。

「あ、ありがとう、セビリア」

「どういたしまして」

そこにティファがやってきた。

「みんな・・・。・・・ごめんね、あたしのせいで」

五人が一斉に彼女のほうを向いた。

「あたし・・・みんなに迷惑かけちゃったね。・・・ホント、ごめん・・・」

「ティファ」

サウラが慰めようとすると、レイがそれを制した。

(え?)

レイのほうを見ると、レイは人差指でそっとあちら側を指した。

丁度リューマがティファに歩み寄るところだった。 「お前のせいじゃねーよ。ティファ、元気出せって」

「でも・・・」

と、リューマがポンとティファの頭に手を乗せた。

「迷惑かけたり、かけられたり、助けられたり助けたり。それが“仲間”だろ?なんも気にすることねぇんだよ」

「リューマの言うとおりですわ、ティファ」

「ああ、そうだな」

「何も気にすることはない」

「そうそう。だからティファ、元気出して!」

ラシュト、セビリア、レイ、サウラの四人も皆微笑んでいた。

「な?言っただろ。誰も迷惑だ何て思っちゃいねーよ」

「うん。・・・そだね。ありがと、みんな」

ティファにもやっといつもの笑顔が戻った。それを見て、ラシュトがリーダーらしく号令をかける。

「よーし、それじゃサイードを手伝いにいくぞー!」

「おー!!」

「ほらよ、ティファ」

「?・・・あっ!」

「お前の弓矢。ちゃんと持ってきてやったからな」

「うん・・・ありがとリューマ」

礼を言うティファにリューマは笑いかけ、もう一度彼女の頭をポンと軽く叩いた。

「しゃ、行くぞ!」

「うんっ!」

二人もラシュト達に遅れない様に走った。ティファは自分の弓をしっかりと抱きしめた。

この弓にこめられたたくさんの思い出、想い。仲間のやさしさ・・・

そして今、隣りを走っているリューマの温かさを忘れないように・・・。






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