「あっシン!おーい」
一人で本部を歩いていると、向こうから呼び止められた。振り向くとアルダンが駆け寄ってくる。
「やあ。どうしたのさ?」
「今日任務だろ。アイツまたサボってんぞ、いいんか?」
また堂々とちょっかい出された。と、アルダンは若干げんなり呟く。
シンはやっぱりと笑った。
「アレク、いなくなった時は絶対アルダンのとこに行くんだもんね〜なんとも解りやすいな」
「笑い事かよ。あぁもう、ルセも何でこう・・・ガツンと言ってやらねぇんかなー!!お前だってパートナーだろ、少しくらい言ってやったらどうなんだよ」
「あはは、参番隊よりも壱番隊のアルダンのほうがアレクの面倒見てる」
「・・・やっぱり一から根性叩きなおすか」
若干真顔でやれやれと腰に手を当てるアルダン。
シンは笑いながらアルダンを見上げた。
「ホント、仲良くなったよね二人。・・・アレク、最近すごく楽しそう」
「サボって何やってんだか」
「や、そういうんじゃなくって。なんか、アルダンと仲良くなってから明るくなったんだ。垢抜けたって言うの?・・・前から明るかったけどさ。なんかちょっと、違う感じ」
「・・・ふぅん?」
首を傾げるアルダンに、シンは静かな表情を浮かべた。
「少しね。不思議なところがあったんだ、アレク。ニコニコしてるのに、ホントに笑ってんのかわからなくなるときとか。
けど、あの事件以来それがすごく少なくなったんだよ。ちゃんと、笑うようになった。アルダンと仲良くなってからだよ。・・・何かがふっきれたみたいな」
アルダンが、チラリとシンを見る。
シンは少し間を置くと、「なんてね」と肩をすくめた。
「俺が見てる限りの話だけどね。でもアルダンがアレクにとって、大きな影響力になってるのは確かだ。それは俺だって見ててわかる」
「・・・そうか」
アルダンはそれだけ呟くと、視線を落とした。
言われていることは理解できたし、実感もあった。
「何か最近の二人見てると兄弟みたいでさぁ、面白いっていうか楽しいって言うか・・・ぁ」
「あ?」
「アルめっけ―――――!!!!!!」
「っぎゃ―――――――!!!!!!!!!!!!」
思いっきり背中に蹴りが入った。
つんのめったアルダンをひょいと避けるシン、おかげでアルダンは壁に激突した。
その背後でガッツポーズを決めるアレク。
「あ、シンやっほうお疲れ」
「相変わらずだねぇ」
「挨拶する場面か!?アレクてめぇふざけんなさっきと同じ場所蹴りやがって!!」
「避けろよ同じ場所とか。」
ものすごい剣幕のアルダンにアレクはけろりと返す。
ああ、さっきちょっかいだされたって、また奇襲されてたんだ。シンは一人納得したように笑った。
「あ、シン午後は行くよー。Cの巡回だっけ?」
「そうそう。討伐要請は来てないから通常巡回だけ?まぁ今日は夜警もあるし、午後は短いだろうけど」
「了解。てわけでメシいこっまだ食ってないだろ?アルも一緒にどう?」
「俺これからパトってくるし」
「うわぉ、真っ面目〜」
「いっぺん本気で殴るぞ」
引きつった笑顔で拳を上げるアルダン。アレクは「ひゃ〜」と頭を抱えながら身をすくめた。
「・・・シン、お前パートナーとしてなんか言うことねェのかよ・・・」
「へ?ああ、パトロール気をつけてね」
「俺にじゃねーよ!」
シンもアレクに負けず劣らずだ。
なんだか疲れた。午前の任務よりも、ものすごく。
「あーじゃあアル、これあげるよ。お腹すいたら食べなよ」
「なんだこれ」
「ルセ隊長のクッキー。」
「マジで!?」
何で今そんなモンもってんだとも思ったが、それはありがたくいただいた。ルセのクッキーは何気に大人気だ。
半分くらい食ったけどまだいっぱいあるだろ、とアレクは笑った。
「じゃ、気をつけてね。今日はちゃんと真面目に任務イッテキマス!」
「毎日行けバカ」
そう言うと、アルダンは「じゃーな」と手を振り出かけていった。
シンとアレクは少し遅めの昼食に向かう。
「あ、そうだシン。腕、もう全快した?」
「うん?大丈夫だよー跡も全然残ってない」
笑顔で右手を上げるシン。黒い手袋の右手を大きく振った。
アレクは「そっか」と呟くと、静かに微笑んだ。が、それはほんの一瞬で、シンが気付くこともなく。
「さ〜今日のメニューは何かな〜」
まったくのんびりとした一日が、過ぎていった。