アイツが 裏切った。
それを知ったとき、頭を力いっぱい殴られたような衝撃を感じた。
頭がぐらぐらする。 ぐらぐらする。
しかも任務で暗殺に向かった相手に 寝返ったとか。
信じられない。信じられなかった。
どうして裏切った?どうしてそんなことができたんだ?
憎んでいたんじゃなかったのか。
人間を。世界を。
オマエを苦しめた奴らに どうして。
本当は オマエが正しいんだって解ってた。
解ってたから、本当は羨ましかった。
束縛を抜け出して 憎しみを乗り越えて
俺にはそれが出来なかったから
羨ましくて 羨ましくて
俺はオマエを 憎んだ。
でもやっぱり、憎しみ以上に オマエのことを信じてた。
よくやったと、本当はすごく嬉しかった。
心の奥で、密かに喜んだ。
「―――――ヴィゼル=ヴァンセント。任務だ。リスト=ラザフォードを、暗殺しろ」
それからすぐ、オマエ暗殺の任が下された。
「御意」
俺にやらせるだろうとは思ってた。案の定だ。芸がねぇなぁ、おい。
久しぶりに会うオマエは、きっとこのことも予想していたんだろう。
少しも慌てず、驚かず。いつもと変わらない、静かな目で俺を見つめた。
「裏切り者には死を―――――忘れちゃいねぇみたいだな」
俺の奇襲にも動じず、ただじっと佇むオマエ。
その目には何の感情も浮かんでいないけど。俺にはわかった。
オマエがその時、何ていいたかったか。
解ってるよ 解ってるよ
だけど 俺は弱いから
オマエのように 強くなることはできなかったから
血まみれになりながら オマエは 笑った。
「 殺されるなら お前にと 」
最初からそのつもりだったんだ
過去を忘れて 殺しあおうとか言っておきながら
オマエは最初から 俺に殺されるために戦ってた
俺は気付いていなくて もどかしくて 悲しくて
オマエも同じように 気付いてなくて。
だけどやっぱり オマエは オマエだ
何のために俺が現れたか
裏切り者になり 暗殺対象になり 孤独を知っていながら 俺を再び独りにしたオマエに
俺は
「 ――――――俺に 殺されに 来たんだな 」
耳元で オマエが呟いた
ああ やっと
やっと 解ってくれた
自然に笑みがこぼれた
俺は 弱いから
オマエのように 強くなることは出来なかったから
オマエのように やり直すことが出来なかったから
せめて オマエの手で
終わらせて 欲しかった
「すまなかった」
なんで
「お前を独りにしてしまって すまなかった」
なんで オマエがあやまんだよ
らしくねぇなぁ
「俺だけ 逃げ出した」
逃げたんじゃねーよ 逃げたのは俺の方。
オマエは 立ち上がった。
オマエの顔を見ようとしたけど もう視界は利かなくて
だけど オマエが泣いてることは気付いたんだ
一度もみたことのない オマエの涙
ああ 見てみたかったな
オマエは優しいから 涙もきっと綺麗なんだろう
一度でいいから 見てみたかったな
もう力の入らない腕で せめてオマエの体を 抱きしめた
オマエも俺を 抱きしめてくれた
もう いいよ
そういって 笑った
「 もう 終わらせてくれよ 」
オマエが 頷いたのが解った
頬を伝う 小さな雫
今日の雨は あったかい