赤い海が、広がっている。

 

 

 

 

 
 
 
目の前に転がっているのは、かつてヒトだったモノ。


かつて自分と血を共有していた、ヒトタチ。


 

 
逃げろ
 
逃げろ
 
逃げろ
 

 


俺の手の届かぬ場所へ
 

俺の目の届かぬ場所へ



 
頭の中でそれだけがぐるぐるとこだまする。


 


信じられなかった。



 


血にぬれ赤く染まった腕を押さえつけるが、体はまだ血を求めている。


自身の意志とは反対に、手が凶器を握り締める。

  

 




何故逃げないんだ

 
何故逃げてくれないんだ



逃げろ!

逃げろ!

逃げろ!




逃げてくれ、逃げるんだ!



 




だが、俺の想いは虚しく。




 




気付いた時には、俺の手がそれを貫いていた。

たったひとつ、俺が愛していたもの。最後のひとつ。





逃げて欲しかった。

生きていて欲しかったんだ。




俺にもまだ、愛する感情が残っていたから。





だが、俺の想いは虚しく。







温もりが失われていくそれは、だが俺に微笑みかけた。





「大好きだよ。・・・お兄ちゃん」


 

 

 

 



守りたかった・・・俺の手で守り抜きたかった。

それなのに俺の手によって壊された。






もう戻ってこない温もり。



もう戻ってこない微笑。





俺にとって、大切なものは全てなくなった。









これが俺の、最初の任務。

  

 

最愛のものを俺自身の手で壊す。

 

 

 

 

それが俺の、最初の任務。

   

 

  
























最愛の肉親を喪い、全てを喪ったアゼル。
その先にあるのは、ただひたすら殺戮を繰り返す、長く残酷な年月だった。
いつしか自分自身の心さえも、殺しながら。